昨日の夜、私はどんを待っていた。
涙ながらに訴えたのは会社が休みのその前日の午前。
もう嫌だ。怖い。折伏しようとしているんじゃないの?両親も学会が嫌いだけど、あなたが好きで信用しているのよ。お姑さんだってあなたが私を巻き込みやしないかと心配しているのよ。あなたはEさんを良い人というけれど、嫌がっている人に届けるなんて非常識。他意はなくてもこちらは悪意に感じる。過剰反応というけれど、そう思われても仕方のないことをEさんはしているんだよ。私はあなたの好きに学会活動させている、その引き替えに私の身の安全は守ってくれるんじゃなかったの?このまま雑誌を届けるだけがエスカレートしたらどうするの?受け取り続けることで脈ありって思われて一人で来るのが二人になり、三人になって折伏してきたらどうするの?Eさんは私たちを離婚させるつもりなの?私の両親もどんの両親も、絶対許さないよ。
切々と、切々と、訴え続ける私に、鬼気迫るものを感じたのか、雑誌一冊で過剰なまでに神経質になった私に不安を感じたのかわからないが、翌日には私の目の前でEさんに断りの電話を入れると約束した。
それから「他にも、もしも、学会に引き込むような動きを見せるような人があらわれたら、俺だって嫌だからちゃんとする」、と名言した。
そういうわけで、どんが帰ってくるのを待っていた。
「ただいま……と」
帰宅をしたどんの前に笑顔で立ちはだかる。
「おかえりおかえりおかえり」
「………トイレに行かせて」
「どうぞどうぞどうぞ」
電話を前にして、どんは唸っていた。
「どう言おう……」
「単刀直入に」
「角がたつじゃん。フォローもいるでしょ」
「勘違いされない程度に」
「これからも、付き合うわけだしさ、俺は。言いにくいなあ…」
「結果的にパワハラだ。断りづらい立場の人間から押しつけられる嫌な雑誌。あなたも被害にあっておりますが、何か」
「パワハラっていうか、ありがた迷惑だよね」
「ありがたくないです、迷惑なだけです」
「うううううう……かけます」
どんは電話をかける。
数コール後、女性の声が漏れた。
どんは挨拶の後、口を開いた。
「僕はありがたいんですけれども……買おうと思ってましたし……」
この辺が彼なりのフォローらしい。自発的に買うつもりがないのは明白なのだが。
「妻が怯えまして……」
怯える?はっきり嫌って言えよう。
「なんというか、いろいろ嫌な目にあっているみたいで」
最近、一番遭遇した学会の嫌な思い出はEさんなんですけどね。
「とにかく怯えてしまって」
……泣く私は怯えているように見えたらしい。やはり神経質になっていたか?私。
「ちょっとカンベンしてもらいたいなと。ええ、すみません」
電話を切って、どんがため息をつく。
「Eさん、わかってくれたみたいよ」
「良かった。いや、本当に良かった」
肩の荷が、少し降りた気がして私は安堵のため息をついた。
「Eさん、がっかりした声出してたよ」
「そう言われても」
それは、私を怯えさせていたことをしていた自分へのがっかり?それとも折伏への道が閉ざされたことへのがっかり?世間ではまだまだ学会への風当たりが冷たいことへのがっかり?
自分でも驚くぐらいの意地悪な考えが頭をかすめたが、私は言わずに黙っていた。
とりあえずは、今回の難関はどんの協力のもとに突破した。
自分の言葉で、辞めてくれないか、と言えなかったことは、良かったのか悪かったのか。
どん的には私のキツめの発言が、余計なトラブルになることが恐ろしかったようだが。
「どん、『妻は学会が嫌い』って言うのはありがたいんだけどさ、それだったらさ、『じゃあ理解してもらおう』って思われるんじゃないかな」
「そう?」
「受け取りようによってはさ、『妻は学会が嫌いだから、僕には折伏できない』と思われたりする人もいるんじゃない?それじゃなくてもさ、なんとかして学会への風当たりを弱くしたいとか、思われているような活動家の人はさ、『じゃあ私が』って思われるかもしれないじゃん。Eさんだってそうなんじゃない?恋人とか夫婦の片方を折伏する時ってさ、付き合ってる相手じゃなくて、折伏したい相手と同性の部の人が出てきたりするんでしょ?そのほうが話しやすいとか、そういう意味で」
「うーん……、まあ、学会への風当たりをなんとかしたいと思っている人ではあるよね、Eさんは」
「だからさ、また私のことが話題に乗ったらさ『妻は学会が嫌いだし、僕も学会に関わらせたくない』って言って欲しいんだけど」
「……わかったよ、そう言うよ。……確かにウチの地区もあるしね、奥さんとか旦那さんが大嫌いだから家には訪問禁止の人とかいるし」
…………さっさと我が家を訪問禁止に指定しやがれ。
そこまでは無理だろう。どんだって役職あるし、たまに打合せにくる人もいる。
会合や座談会のための提供はしないだろうが(狭いし、私が横でブチ切れるだろうし)。
「お腹すいたなあ」
どんがお腹を撫でた。
「……はいよ」
これでなんとか、来月からはパンプキンは家には届けられなくなる、はず。
毎月がハロウィン!なんてことはなくなるはずだ。
今回はどんは頑張った。休みの日の朝から目を腫らしたかいがあったってなもんだ。
普段はバラバラなことをして楽しんでいる夫婦だが、問題が起こったらパートナーと協力して解決の努力をしないと、という時間だったのだろう。
なんだかんだで、どんは押しが弱いし、人も良すぎるし、これからも似たようなことが起こりそうな気もするが、まあ、なんというか、その都度、譲ったり譲られたり、喧嘩したり怒ったり泣いたりしながら、その都度なんとかしていこう。
改めてコメントを寄せてくださった方々に感謝を。
私が気の置けない人々の中で夫が学会員だということを知っている人は、実家と一人の同僚。
親にも心配かけられないし、同僚は既婚だけど家族には学会員はいないから、愚痴は聞いてもらえても立場がやっぱり違う。実は学会に関する愚痴が心おきなくぶちまけられるのはブログだけ。
そんな中で、寄せて頂いたコメントがどんなに解決の糸口になったことか。考えを整理する材料になったことか。
皆さん、ありがとうございました。
涙ながらに訴えたのは会社が休みのその前日の午前。
もう嫌だ。怖い。折伏しようとしているんじゃないの?両親も学会が嫌いだけど、あなたが好きで信用しているのよ。お姑さんだってあなたが私を巻き込みやしないかと心配しているのよ。あなたはEさんを良い人というけれど、嫌がっている人に届けるなんて非常識。他意はなくてもこちらは悪意に感じる。過剰反応というけれど、そう思われても仕方のないことをEさんはしているんだよ。私はあなたの好きに学会活動させている、その引き替えに私の身の安全は守ってくれるんじゃなかったの?このまま雑誌を届けるだけがエスカレートしたらどうするの?受け取り続けることで脈ありって思われて一人で来るのが二人になり、三人になって折伏してきたらどうするの?Eさんは私たちを離婚させるつもりなの?私の両親もどんの両親も、絶対許さないよ。
切々と、切々と、訴え続ける私に、鬼気迫るものを感じたのか、雑誌一冊で過剰なまでに神経質になった私に不安を感じたのかわからないが、翌日には私の目の前でEさんに断りの電話を入れると約束した。
それから「他にも、もしも、学会に引き込むような動きを見せるような人があらわれたら、俺だって嫌だからちゃんとする」、と名言した。
そういうわけで、どんが帰ってくるのを待っていた。
「ただいま……と」
帰宅をしたどんの前に笑顔で立ちはだかる。
「おかえりおかえりおかえり」
「………トイレに行かせて」
「どうぞどうぞどうぞ」
電話を前にして、どんは唸っていた。
「どう言おう……」
「単刀直入に」
「角がたつじゃん。フォローもいるでしょ」
「勘違いされない程度に」
「これからも、付き合うわけだしさ、俺は。言いにくいなあ…」
「結果的にパワハラだ。断りづらい立場の人間から押しつけられる嫌な雑誌。あなたも被害にあっておりますが、何か」
「パワハラっていうか、ありがた迷惑だよね」
「ありがたくないです、迷惑なだけです」
「うううううう……かけます」
どんは電話をかける。
数コール後、女性の声が漏れた。
どんは挨拶の後、口を開いた。
「僕はありがたいんですけれども……買おうと思ってましたし……」
この辺が彼なりのフォローらしい。自発的に買うつもりがないのは明白なのだが。
「妻が怯えまして……」
怯える?はっきり嫌って言えよう。
「なんというか、いろいろ嫌な目にあっているみたいで」
最近、一番遭遇した学会の嫌な思い出はEさんなんですけどね。
「とにかく怯えてしまって」
……泣く私は怯えているように見えたらしい。やはり神経質になっていたか?私。
「ちょっとカンベンしてもらいたいなと。ええ、すみません」
電話を切って、どんがため息をつく。
「Eさん、わかってくれたみたいよ」
「良かった。いや、本当に良かった」
肩の荷が、少し降りた気がして私は安堵のため息をついた。
「Eさん、がっかりした声出してたよ」
「そう言われても」
それは、私を怯えさせていたことをしていた自分へのがっかり?それとも折伏への道が閉ざされたことへのがっかり?世間ではまだまだ学会への風当たりが冷たいことへのがっかり?
自分でも驚くぐらいの意地悪な考えが頭をかすめたが、私は言わずに黙っていた。
とりあえずは、今回の難関はどんの協力のもとに突破した。
自分の言葉で、辞めてくれないか、と言えなかったことは、良かったのか悪かったのか。
どん的には私のキツめの発言が、余計なトラブルになることが恐ろしかったようだが。
「どん、『妻は学会が嫌い』って言うのはありがたいんだけどさ、それだったらさ、『じゃあ理解してもらおう』って思われるんじゃないかな」
「そう?」
「受け取りようによってはさ、『妻は学会が嫌いだから、僕には折伏できない』と思われたりする人もいるんじゃない?それじゃなくてもさ、なんとかして学会への風当たりを弱くしたいとか、思われているような活動家の人はさ、『じゃあ私が』って思われるかもしれないじゃん。Eさんだってそうなんじゃない?恋人とか夫婦の片方を折伏する時ってさ、付き合ってる相手じゃなくて、折伏したい相手と同性の部の人が出てきたりするんでしょ?そのほうが話しやすいとか、そういう意味で」
「うーん……、まあ、学会への風当たりをなんとかしたいと思っている人ではあるよね、Eさんは」
「だからさ、また私のことが話題に乗ったらさ『妻は学会が嫌いだし、僕も学会に関わらせたくない』って言って欲しいんだけど」
「……わかったよ、そう言うよ。……確かにウチの地区もあるしね、奥さんとか旦那さんが大嫌いだから家には訪問禁止の人とかいるし」
…………さっさと我が家を訪問禁止に指定しやがれ。
そこまでは無理だろう。どんだって役職あるし、たまに打合せにくる人もいる。
会合や座談会のための提供はしないだろうが(狭いし、私が横でブチ切れるだろうし)。
「お腹すいたなあ」
どんがお腹を撫でた。
「……はいよ」
これでなんとか、来月からはパンプキンは家には届けられなくなる、はず。
毎月がハロウィン!なんてことはなくなるはずだ。
今回はどんは頑張った。休みの日の朝から目を腫らしたかいがあったってなもんだ。
普段はバラバラなことをして楽しんでいる夫婦だが、問題が起こったらパートナーと協力して解決の努力をしないと、という時間だったのだろう。
なんだかんだで、どんは押しが弱いし、人も良すぎるし、これからも似たようなことが起こりそうな気もするが、まあ、なんというか、その都度、譲ったり譲られたり、喧嘩したり怒ったり泣いたりしながら、その都度なんとかしていこう。
改めてコメントを寄せてくださった方々に感謝を。
私が気の置けない人々の中で夫が学会員だということを知っている人は、実家と一人の同僚。
親にも心配かけられないし、同僚は既婚だけど家族には学会員はいないから、愚痴は聞いてもらえても立場がやっぱり違う。実は学会に関する愚痴が心おきなくぶちまけられるのはブログだけ。
そんな中で、寄せて頂いたコメントがどんなに解決の糸口になったことか。考えを整理する材料になったことか。
皆さん、ありがとうございました。