ある日。会社から帰宅してすぐ、台所を覗いたら。
どんが昼ご飯を作ったままでフライパンやらなんやらが放置してあり。
どんは料理が出来ないのだが、私のいない昼間、どんなりにいろいろチャレンジしていたらしい。
洗い物だけはちゃんとしているどんなので、片づけないなんて仕事が忙しかったのだろう。(どんは在宅自営)
夕食を用意する前に片づけるかとフライパンを手に取ると。
奇妙な匂い。
いや、でも嗅いだことあるし、この匂い。
でもフライパンからこの匂いがすることは、とりあえず一般家庭ではない。
そりゃ中華料理店なら可能性はなくはない。もしかしたらイタリア料理店であるかもしれない。
昼に3分クッキングでも見たのか?どんは。それで試したのか?
「どん」
「何?」
脳天気な顔で、ひょこひょこと台所にどん登場。
フライパンに顔を近づけて鼻をヒクヒクさせている私の姿に、ちょっとたじろぐ。
心当たりがあるようだ。
「何、作ったの?」
「きゅうりを炒めてみた」
「!!!!」
「なんで?テレビでやってた?」
「いや、なんとなく」
「!!!!!!!」
「で、どうだった?」
「きゅうりは生が美味しいね」
「……そうね」

きゅうりを炒める。
調べたら中華料理のメニューであった。
それはいろいろ中華系調味料加えて味付けしてある。
他の具材も一緒に炒めたりする。
そうすれば美味しいと思う。
その調味料や具材は家にもある。
だが、どんがしたのは油を引いて味付けなしの素焼きだった。
さぞかし素材の生臭さまで十二分に活かされた味だったと思う。
………発想は素晴らしいが、レシピはないかネットで調べようとか思わなかったか、お前さん。


ある雨の日の夜、どんが私の部屋(書斎みたいなもの)に駆け込んできた。
「華ちゃん!華ちゃん!大変!」
「はい?」
「エイリアン!エイリアンみたいな虫がいる」
捲し立てるどんの言い分を要約すると。
雨が酷いなと、ベランダに出てふと、頭上の軒を見上げると、見たこともない形の虫がとまっている。
そういうことらしい。
エイリアンみたいな虫、という例えにすっかり怖じ気付いた私は、どんの「見て見て!」というお願いを却下していたのだが、どんがしつこいので、諦めてどんと共にベランダへ。
懐中電灯を当てて、軒を見てみると。
確かに不思議な形をしているのだが。
「どん」
「ね!エイリアンみたいでしょ!なんだろね、この虫」
「セミだよ」
「え?」
「すごいなあ。セミが羽化してる最中だね。初めて見たよ私」
「えええ!そうなの!」
「よく見て」
「本当だ!」
この部屋は階層は高くはなく、木々も敷地内にある、幼虫のはい上がれる範囲だったのだろう。
なんにしてもタフな幼虫である。
それはさておき。
確かに、エイリアンには見えなくはない。パクッと割れた幼虫の背中から、まだ白いセミがぶら下がっている。
その1匹と抜け殻が一つの虫だと思えば、それは奇妙な虫だ。
隣を見れば、どんは鼻の穴全開で嬉しそう。小学生男子のようである。
………気味が悪かったのはわかるが、もうちょっと確認しようよ、お前さん。

また別の日の夜。
その日は、早い時間に2人で外食をした。
帰宅して、酒を飲みながら緩い時間を過ごし、さて寝るか、と寝室に移動して布団に潜り込んだのだが。
どんはなかなか寝室に来ない。
暫くして、コップと皿を持って寝室にやってきた。
「……何ソレ」
「え?酒の肴に肉を焼いた」
「いや、さっき飲んだじゃん、酒。肴もあったじゃん、ガーリックトースト」
「うん。そうなんだけど」
「っていうか、そのコップの中身、私のカクテ●パートナーだよね?自分のビールはさっき全部飲んだよね。缶じゃなくてコップに入れてもってきたところを見ると、こうすればバレないと思ったからだね。でも分かるよ、今、そんな半透明の飲み物はうちには私のカクテ●パートナーのソルティドッグしかないからね」
「うっ」
「それに肉、なんで焼くの?さっきダメって言ったじゃん」
夕食後に帰宅して、学会の用事で少し出かけたどんがスーパーに寄ってビールを買って帰ってきた。
その時に奉仕品の安くなった牛肉を買ったらしい。
どんは酒を飲む時に食べたがったのだが、夕食後でもあるしもう寝るのだから肉よりは軽いガーリックトーストにしようと説得し、冷凍庫に入れたのだが。
「あのですね、ワタクシ、あなたが夕食のおかずを残して、それを寝る前の晩酌の肴にするのを黙認してまいりました」
「はい」
「寝酒も、遅い時間の肴も、身体にとっても悪いことなんですけど、どうしてもあなたは辞めてくれませんしね」
「はい」
「独身の頃からそんな生活で、結果、中性脂肪が基準値よりいっぱいついてますねと人間ドックで言われましたね」
「はい」
「あなた、長いこと独り暮らししてた独身時代に卵を1日に何個も食べてコレステロール値がすごいことになってましたね」
「はい」
「結婚してから卵は1日1個以下に徹底して、あなたが何個も食べたがるのを怒鳴りつけてまで辞めさせましたね」
「はい」
「その結果、今年の人間ドックではコレステロール値が下がっていましたね」
「はい」
「次はね、中性脂肪なんですよ」
「はい」
「夕食のおかずを残して肴にするのもね、黙認してましたけれど。そしたらあなた、調子に乗ってわざわざ肉買ってきて、夕食を食べて晩酌の時に肴でガーリックトーストを食べたくせに更に肉を焼いて食べると?」
「はい」
「馬鹿!!!!!」
「ヒィィ!」
「誰がアンタに栄養のあるものを食べさせようといろいろ気を遣ってると思ってんのよ!」
「ヒェェ!」
「私ね、暇じゃないの。働いてるの残業してるの。帰りとか遅くなったりするけどね、せめて夕食だけはと思ってアンタの身体の事を考えて作ってるのにね、そりゃ惣菜買ってくる時もあるけどね、それでも栄養バランスを考えて選んで買ってくるのにね、あんたはそういう私の努力とか気遣いとかをね、全部無駄にしてんのよ!この脳天気学会員!!
「学会は関係ないよう…」
口答えするんじゃないわよ!分かりました。明日から一切、アンタの食事は作らない。好きなだけ卵食べて肉食べて酒飲んでコンビニ行って脂っこいものばっか選んで食べてファーストフードに毎日通って、アンタの大好きなカロリーの高い偏った栄養素摂取すれば?アンタが成人病になって入院しても、私は一切知りません」
「えええ?!なんだよう!華ちゃんはお母さんじゃないじゃん!」
「お母さんじゃねえよ!だから自分で自制しろ自己管理しろって言ってんのにやらないからこうして怒鳴ってんだよお母さんみたいに!」
その後、恩着せがましい鬼嫁と化した私はいろいろ怒鳴り飛ばし(暴言とも言う)、どんはしょぼんとしながら冷蔵庫に皿ごと戻しに行った。
ああ、こうして文字に起こしてみると、私ってば鬼だね鬼。いかんいかん。
ちなみに過去の例から行くと、どんは怒られたことを忘れて、またやらかすと思う。
で、見つかって「てへ」と笑うのだ。ムキー!
………もうさ、いい歳なんだから、身体のことを自分で考えて危機感持とうよ、お前さん。
ああ、考えたからきゅうり焼いてみたのね。

とりあえず、私が日々やらかしている間抜けなことや、暴言や、好きな食べ物に対する執着のすごさ(上記のように怒鳴った要因の一つに私のカク●ルパートナーを奪われたのが許せなかったという理由もある)などは、そしてそれをどんがおおらかな笑顔で許容していることは、誰の手も届かない、遙かに高い棚に上げておくとして。

ちなみに最近のどん。
なんだか楽しそうに「怪奇大作戦」のテーマを歌っている。
………こないだまで落ち込んでなかったけ?お前さん

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