平和だ平和だと、油断していた。いきなり伏兵が現れてしまった。

打ち合わせの帰り、広告代理店が入っているビルのエレベーター。
地場の代理店とはいえゴージャスなビル、ああ、儲かってんだな、あれだなドラマとかで「広告代理店で繰り広げられる恋模様」なんてのは、こういうビルが舞台なんだろうなアハハハハなどとぼんやり考えながらエレベーターを待つ。
「あ、華さん」
声をかけられる。振り向けば、ドラマに出てくるヤングエグゼクティブな広告マン(理想は谷原章介)…ではなくて、どんのご友人、F氏。
頭の中は、広告代理店恋物語に相応しいラブソングが流れていたのに、一気に切り替わる。「♪創価?学会?♪」。
どんの創価な仲間たちの1人、男子部な広告マンF氏。
「お世話になっております」
「どうもどうも、うちに来られました?」
「はい。●●の件で△△さんと打ち合わせで」
「あーそうですか、よろしくお願いしますね」
F氏は私の隣に立った。どうやら彼も下に降りるらしい。
エレベーターホールには、人がいない。そのせいだろうか、F氏はニコニコしながら話し始めた。
「どん君は元気ですか?」
「はい。おかげさまで」
「いやー、会館でしかなかなか会わなくてね。地区も違うから大きな会合で会うくらいで」
「はぁ、そうなんですか」
……ふと、嫌な予感がして、言ってみた。
「私は、外部なのでよく分からないんですけどね」
「え?!」
F氏が目を剥いて私を見た。
何故?何故そんなに驚くんでしょうか?
イマドキ、創価と非創価の組合せなんて珍しくもないでしょう?
もしや、私、学会員に見えたんですか?女子部に見えたんですか?持ってませんよパステルカラーのスーツなんて、髪短いけど額は前髪で隠れてるじゃないですか、そういう雰囲気でも醸し出しているんですか?そうなんですか?どうなんですか?いや、まあ、いまどきそんなベタな女子部はいないよとどんは言ってましたけど。
ポーン、とやってきたエレベーターに乗り込む。
ポーン、軽い電子音だが、ゴングのようでもある。エレベーターは1mにも満たないリング。
「ええ?そうだったんだ。てっきり」
てっきりってなんですか、てっきりって。
どんは「うちのカミさんは学会嫌いなんで」とアナウンスしているそうなのだが、F氏の耳には届いていなかったらしい。
「そうなんです。夫だけです。私は入ってません。入る気もありませんし
よく言った!よく言ったぞ私。でも失礼に当たらないように笑顔はキープだ!アンチだということを悟られるな!興味がないを押し通すのだ!
取引先の代理店社員vs受注側の制作会社社員。立場的には私が不利である。仕事をもらうのは私の方。自分の立場の表明をしなければならないが、失礼はあってはならないのである。がんばれ!がんばれ私!
相手の立場を尊重しつつ自分の立場を主張する、これ社会人ルール(よく破られたりするけど)。
アンチである以前に、一社会人でございます、わたくしは。
「そうなんだ入ればいいのに。入ったほうがいいよ
キタ━━━━━━(゜A゜;)━━━━━━ !!
お勧めしてます?お勧めしてますか?あはははは。
「あははは、うちは夫は夫、私は私でそれぞれのフィールドを守って上手くやってるんで」
答えになってないぞ私。変なごまかし方だぞ私。こんなんじゃ伝わらないぞ。
「ま、私も興味ないですし、夫も勧めませんし」
遠巻き、遠巻きにな?
この後、定番の話に流れ込んでいくのだが(定番中の定番、新聞とか題目とか平和とか功徳とか言わずもがなな内容なので割愛。マニュアルでもあるんですか?)、「いや?、私は興味ないですねぇ」と笑顔で切り返し続ける。
途中でポーンと終了の合図でエレベーターが開いても、ビルの出入り口まで延々と続いたバトル。こういう時に限って人がいないの、どうしてかなあ?
しかしあちらも大人。「次またゆっくり…」なんてことは言わずに、入口で感触が悪いと思われたのか、人の家庭に口出ししすぎるのはよくないと思われたのか「では、どん君によろしく。●●の件もよろしくお願いしますね」とあっさり挨拶される。ああ良かった。
こっちも頭を下げる。こういう話をされると困るが、それ以外ではお世話になっている取引先の社員さん。無碍にはできないからこそ、こういう話は困るんだけどなあ。
F氏が学会員だとどんに聞かされた時から、警戒はしていた。でもまさか仕事の場でそんな話をされるなんて思いもしなかった。
伏兵、潜んでました………。
それでも、私、言ってしまった。
「仕事も忙しいのに、学会の着任もあって、夫の身体が心配で。交通整理なんかで事故とかも心配ですし…」
が。
「あはは!どん君なら大丈夫ですよ!」
…………すいません、その根拠はなんですか………?
うちの夫は不死身には見えないんですが。
あれですが?学会員さんって功徳で不死身なんですか?

……そんなわけないが。
同じ人間です。普通の人々です。
でも、何を持って「大丈夫ですよ」なんて言い切るのかわからないけれど、その言葉の裏に、学会が学会員に対してどう思っているかということを、垣間見えたような。
それが学会員同士の中にも浸透しているような。
そういう気がして、嫌な気分になった。