■GO WEST
雑誌だかネットだかでどんが見かけて「行きたいなあ」とぼやいていたのは、広島県福山市の鞆の浦。
江戸・明治・大正から昭和の古い民家がそれぞれ100前後づつ現存し(史跡や資料館としてだけでなく、現在進行形で住居や店舗として使用されている)、宗派問わず様々な寺が存在する古い港町は、史跡好き神社仏閣好きのどんのハートをガッチリ掴んで離さなかったらしい。
「いきたいなあ」いつも言うだけで計画なんぞ立てはしないどんに代わり、どんの希望通り下調べをし計画を立て、GW直前にもかかわらず宿が取れ、そんなわけで西に向かうのである。

■怒らせて喜ぶ男
計画の全てを私に任せておきながら、出発の早朝、どんはわざとらしく世話を焼く。
「ハンカチは?ティッシュは?ほら?華ちゃん、ちゃんと準備したの?」
「昨日のうちに全部支度しましたけど、何か?」
何もしてないくせに偉そうに!と私の眉がピクピクするのを、どんがニヤニヤしながら眺めている。わざと怒らせる事を更にわざとらしく言って私の反応を見るのを、どんは好きなのだ。憤死させるつもりだろうか。
「美味しい物いっぱいあるみたいじゃない?だからさ、ほら、胃薬持っていかないと」
よく気が付くでしょ?とばかりに威張りながら話しかけてきたどんの手には薬袋いっぱいの消化剤。それを旅行鞄に入れようとしている。
「…どん、何泊する気?2包とか3包でいいでしょ?」
「……え……予備…」
「予備でそんなに大量に持っていくなよ!荷物になるでしょうが!」
他にも、「もしものためにラジオが必要だ!」とお風呂ラジオを持っていこうとするのを「私のMP3プレイヤーにはラジオがついているから」と止めたり、小さい懐中電灯を持ってウロウロしたり(どうするつもりだったのだろうか)、旅慣れしていないどんの不思議な行動に怒りつつビックリしつつ内心爆笑しつつ。

■ボンネットバスに興奮する男
混雑気味の新幹線でギューンと西へ。頭の中のBGMは勿論「いい日旅立ち」なのである。実際には例のMP3プレイヤーでQUEENを聞いていたのだが。
常に車移動。ここ数年は帰省以外で県外旅行にも出ることもなく新幹線にも電車にも滅多に乗らないどんは、目を輝かせて流れゆく車窓からの風景を見つめている。
小学生のように喜ぶどん。しかしこの華プロデュースの旅は、どんな好きな物てんこ盛り。どんが喜ぶものはまだまだいっぱいあるのだ。ああ、私って優しいなぁというより、どんのツボは私のツボ。楽しい物や好きな物の好みが近いのである。
そうこうしているうちに、福山駅へ。鞆の浦へはここからバスに乗り換える。
鞆の浦行きバス乗り場はスターバックスの前。13時30分発のバスまで少し時間があるので、休憩がてらお茶をする。
「何か軽く食べる?」という、どんの提案を「現地についてから美味しい物を食すべし!」と却下。相変わらず不思議な発言をする。行くと決まったときから「鞆の浦は鯛が名物だ今は桜鯛のシーズンだ港だから魚が上手い行きたい店も決めたぞ」と言い続けていたのに、何も届いていなかったのか。地元でも行けるスタバで軽食なんぞするな。
普通のバスがやってきては客を乗せて出発する。やがて、普通じゃないバスがやってきた。昭和30年代に製造されたボンネットバスである。スケジュール通り。行きはこれに乗るのである。
「アレに乗ります!」
「スゲー!スゲー!」
クリーム色と焦げ茶のコントラストがレトロな味わいを醸し出す、いかにもな風貌。
車好きのどんは満面の笑みである。で、写真係は私なのでデジカメでピッピと写真を撮るのは私。
春と秋の日曜祝日しか走らないこのバス。午前中は定期観光、午後は往復2便。観光用のためだけに復刻されたバスだそう。癖のある古い車体のため、運転手さんと車掌さんは扱いに慣れたベテランさんなのである。
天井には昔の鞆の浦やバスなどの白黒写真が貼ってある。
狭い車内。クーラーもないため、窓を全開。車掌さんの名調子のガイドに笑いながら鞆の浦へ出発。バスの運行以前は鉄道路線だったらしく、わずかな駅の名残や路線の案内も。
途中、右手に見えたのは。創価学会様の会館。
「なかなか立派じゃないか」と他のお客さんに聞こえないように小声でわざとらしく自慢するどん。どんなときでも私をわざとイラつかせることは忘れない。
「あーはいはい。立派立派。良かったですね?これでいいか?あ?」
「ウヒャヒャヒャヒャ!」
私の反応に、どんはまた面白がる。ボンネットバスに乗り、妻をからかい、どんはご満悦である。
しばらく走ると、左手に海が開けた。潮風が車内に満ちる。
広い空も海も碧々。穏やかな波が五月の陽光に煌めく。
爽やかな風景を眺めているうちに、鞆の浦へ到着した。

■マツケンが好きらしい
昼食を取るべく訪ねた一軒目。古い櫓屋跡を再利用した食事処。オーダーストップは15時30分との表記なのに、14時の段階で断られる。ドレスコードでもありますか?ってなわけでもなく、おそらくGWの人出で材料が尽きたためだろうと勝手に予想して候補の二軒目へ。
二軒目はおばちゃんが二人で忙しく動き回る食事処「おてび」。
旅行雑誌やガイドブックによると、ここはラーメンが人気らしく、ラーメンとカウンターにずらり並んだ小魚料理やお惣菜の中から魚を中心に4品チョイス。
ここでもどんは「俺、日本そばにしようかな」と不思議発言。いやいやいやいや。ここはあえてガイドブックに踊らされてみましょうよとラーメンを勧める私。
出てきたラーメンは鶏ガラスープに細麺、もやしと普通の煮た豚バラ肉(!)がのっている。
ちょっと独特の味で、あっさり美味しい。小魚料理は港で揚がった魚を調理しているそうで、私達が食べたのは海老や小海老の塩焼き(?)小魚の南蛮漬けなど。カルシウム補充。これも美味しかった。ふと前を見ればどんは嬉しそうにラーメンをすすり幸せそうにビールを飲んでいる。つくづく暢気な男である。
鞆の浦の町並みは何度かドラマのロケ地になったらしく、俳優さんも多く訪れているとのこと。壁にはこの店を訪れた俳優さんたちの写真やサインが飾ってある。なんとなく眺めていると松平健さんの写真が多いように感じる。というかカレンダーも松平健であったりする。……マツケンファンなのか?そうなのか?

■散策する
宿にチェックイン。対山館という海沿いの旅館である。荷物を置いて手荷物だけ持って観光開始。
町並み保存をあえてしたわけではなく、たまたまこれだけの古い民家や店舗が現存しているとのこと。史跡好きにしてみれば奇跡の町である。
観光地ではなく日常の中の古民家にタイムスリップしたような感覚に陥る。どんは家の造り1つ1つにいちいち感心し、私はひたすらデジカメのシャッターを切る。
のろのろと歩きながら鞆城跡にある歴史民俗資料館へ。傾斜のきつい坂の上、見渡す景色は絶景。
古い町並みの向こうの瀬戸内海、それだけで絵になる。
鞆や鯛漁の歴史や古い漁具、父方の出身地が鞆の浦ということで宮城道雄の縁の品々の展示などを見る。それからまた下って上って福禅寺の客殿「対潮楼」へ。目の前には弁天島(無人の小島。弁天様を祀っている塔が立っている)その向こうには仙酔島という島が見える。この対潮楼は朝鮮通信使の宿泊場所だったところ。
お隣さんとは付き合いが長いのである。
寺の所蔵品らしき江戸時代の地図も展示してあったが、竹島はしっかり日本の領土として記されていた。
15時頃からの散策なので、各観光ポイントが閉まる17時まで時間がない。回れるところからサクサクと。続いて「太田家住宅」。以前の主は「中村家」でこの町で作られていた保命酒の醸造販売の一切を取り仕切っていた専売業者の住宅兼店舗兼醸造所跡であり、幕末、三条実美らが長州へ落ち延びた7人の公卿が落ち延び、途中ここに滞在した史跡でもある。
感嘆すべきは建物の要所要所にある「一工夫」である。戸口をつり上げ式にすることで大きな荷車の出し入れを可能にしたり、重い扉を開けやすくするために滑車を仕込んだりなどなど、昔の人の知恵は偉大だ。
次は保命酒を買い求めるために今でも保命酒を作る醸造所へ。保命酒というのは養命酒みたいなもので、もち米と米麹に焼酎を加えたものに16種類の漢方をつけ込んだお酒。4軒あるうちの1軒へたどり着くと16時半を過ぎている。醸造場の二階にある資料館を見学させてもらい、試飲させていただくことに。香りと味が異なる。最初は抵抗がある味なのだが、二口目からはそうでもない。甘くてシロップのよう。どんが気に入ったので、それぞれの両親のためと我が家用に買い求めた。
ここで店舗系資料館系は17時のタイムリミット。
あとは時間制限のない寺や神社を散策することに。
組み立て式の能楽堂のある沼名前(ぬなくま)神社や眺めの良い医王寺など、またしても上がったり下がったりする。しかしさすがは創価学会員のどん。手は合わさない(鳥居はくぐる)。しかし神社仏閣好き。建築様式を見たいらしくあちこち覗き込む。まー、どっちでもいいけどちょっと不躾で失礼でないかい?と、賽銭を投げて手を合わせて「お邪魔します…お騒がせしてますです…」と挨拶する私。「手を合わせとも
拝めとも敬えとは言わん。あちこち覗き込んで見学させてもらうんだからお邪魔しますくらい言ったら」と声をかけてみるも、生返事で柱を覗き込んでいた。駄目だこりゃ。
沼名前神社の片隅で、どんが古い小型の砲を見つけた。なんの案内板もないのに、「クルップ砲だね。日露戦争頃かなあ」。どんの奥深い知識に驚く。史跡好き神社仏閣好き歴史好きに加え軍事系も守備範囲らしい。お前さん、実はとても賢い子だろう?
でもどういうわけか、誰もが知っていそうなことを知らなかったりする。そのアンバランスさは面白い。
神社を下ると参道沿いに駄菓子屋さん。ちょっとひやかしてみつつ、次の医王寺へ。
少し離れているため、町並みを眺めながら写真を撮りながら移動。入りたかった昔の理容院を利用したカフェは夕食前ということで写真におさめるだけに。再び坂道を上り辿り着いたのは医王寺。そこからまた古い町並みと瀬戸内海を眺める。日はやや暮れかけ。風も涼しい。
本音を言えば、「対潮楼」より医王寺や歴史民俗資料館のほうが眺めが良いのである。
で、再び坂道を下る。
地元の人と観光客の車が狭い道を行き違う。一車線なので譲り合い。車で来るには適さない町らしい。そのままフラフラと歩いて再び港へ。雁木に腰掛けて常夜灯を眺める。観光地なのに、このゆったりとした時間は何だろうか。
「いいな?、こういう所で暮らしたいなあ?」どんは終始ご満悦である。
まるでどんが何もしていないかのように書いているが、どんには「渉外担当」という重要な役目がある。店員さんへの声かけ。私の言いたくない事(店員さんに質問をするのが何故か苦手)を代わりに言ってもらったりする……まあ、それだけなんだけど。

■夕暮れの海
旅館に戻る。部屋は広く、オーシャンビュー。
妹からメールが入っていた。近場の行楽地にて遊ぶ2歳と1歳の甥の写真を送ってくれている。
その真似をしてTシャツにトランクスという姿で部屋を駆け回る(大迷惑)どんの姿を携帯で撮影して妹に送りつける。嫌な姉である。
お風呂に行く準備。浴衣に大喜びのどん。今日は常に大喜びである。プロデューサー的にも喜ばしい。まあ、私は疲れているのだが。
お風呂もオーシャンビュー。夕暮れの海を眺めながらお風呂に浸かる。
そこまでメジャーではない観光地のせいか、客は少ない。しばらくすると貸切状態。
いやー、極楽極楽。日々の喧噪やイライラや学会や名誉会長が嘘のようである。おほほ。

■鯛! その1
食事は部屋食。どんのテンションは一層あがる。ちょっと高めの値段設定にしているので、どーんと鯛そうめんが付く。ビバ!
グルメではないので、細かい事は表現しきれないが(歯触りがどうとか味がふくよかでどうとか)美味でした。

下へ続く。