朝。
遠方にいる友人に会いに行く私が出かける支度をしていると、どんが起きてきた。
日曜の朝なのに、早いお目覚めである。
朝の挨拶をすると、どんも出かける支度を始めた。
「どっか行くの?」
「勤行。出発式に行くの」
「朝からケッコウなことで。で、誰がどこに出発するの?見送り?」
「は?」
「だから、出発式って」
「どこにも行かないよ」
「いや、だから出発」
「ああ、朝、みんなで題目あげるの。で、出発っていうのはそれぞれの人生に向けての出発ってことさ!」(わざとらしい笑顔)
「………………クサい」
鬼嫁級の捨てぜりふを吐く。
わざとらしい正義の言葉には、プロレスのヒール級の罵倒で返してやりたいところだが、朝からそんな元気はない。いっそ鬼嫁になりたい。
しかし非常に、ごもっともなことをおっしゃっているが、青臭さが匂ってくるのは何故だろうか。
相変わらず大映ドラマに出てくる熱血教師(やコーチや優等生やリーダー格)が誰かを励ますセリフのようである。することなすこと、いちいち劇的で大袈裟で暴力的強制的ポジティブシンキングに持っていくのは、この集団の特徴なのだろうか。
「そんなこと、本気で思ってないくせに」
どんに白い視線をプレゼントしながら言うと、どんは笑った。
「まあ、単に名称だからね」
集団が大袈裟でも、末端はそんなもんである。

夕方。
用事を済ませて電車の中。
車窓に流れる景色の中に佇むパチンコ屋の屋根の上の大きな電飾看板、「パチンコ」の「ハ」の部分の電飾が切れていた。
薄曇りの夕暮れにダイレクトに浮かび上がる男性器の俗称。その侘びしく哀しい情景に笑いを必死にこらえながらの帰路。
駅までどんが迎えに来てくれた。
スーパーで買い物をするという私に、どんは一言。
「あ、俺、今から会館に行くから、帰りは11時くらいになるかな」
「はあ?聞いてねえよ」
予定を言わない貴様にはメシなどないわとブチキレしながらも、何故かスーパーで購入するのは二人分の夕食の材料。
鬼嫁になりたい。
なりきれない甘い私に打ちひしがれながら、家の前でどんと別れる。
どんは会館へ。私は家へ。
車のドアを閉め際に叫ぶ「この馬鹿学会員!」というお約束の罵倒にどんは「ウヒャヒャヒャ!」といつもの笑いで返す。
「鬼嫁上等、打倒創価」と赤い筆文字でプリントした黒いTシャツを作りたい。

夜。
「鉄腕DASH」を見ながら食事を作り、一人で食事をし、自室でお茶をすすりながら「鉄腕DASH」を見ていると、予定よりも早くどんが帰宅した。
おお、もう帰ってきたのねとウキウキしていると(←この辺新婚空気)、「ご飯食べたらまた会館に行くから」
メシを食べに帰ってきたのか貴様!!
再び出かけていくどんに、もはや怒鳴る気力もない。
それは犠牲ではないかと言うと、どんは犠牲だとは思わないという。
どんは犠牲だとは思わないというそれをマインドコントロールという。
というか、私には大いなる犠牲である。
日頃忙しいんじゃ。日曜の夜くらい、夫とゆっくり食事をさせやがれ。
そのつもりで、真っ直ぐ家に帰ってきたのだが。
それに対しては申し訳ないと思っているらしく、食事をすると、ごめんねえ、と言いながらどんは出かけていった。
腹立たしいので、玄関ドアにセットしている防犯アラームのスイッチ入れてやる。
我ながら、程度の低い嫌がらせである。
やっぱり、女子プロレス並のメイクをして、鬼嫁Tシャツを着て、竹刀を持って玄関前で仁王立ちをしておいたほうが良いだろうか?その格好で会館までどん迎えに行ったらどうなるだろうか?
しないけど。
自分が創価が嫌いだからといっても、私にはどんを拘束する権利も、どんの行動を独占して自由を奪う権利もないのだ。
どんはどんで気を遣っているのはよく分かる。こんな日があるのとは逆に、私と出かけるために会合に行かない日もあるのだ。
もっともっとと貪欲になるのは、単に私のワガママでしかない。
だから物わかりの良い顔をして、私はどんを送り出す。
でも時々、そういう感情が吹き出して、どんを困らせる時がある。そういう時、どんは私を優先するか、埋め合わせをする。どんの申し訳なさそうな顔に、私は自分の身勝手さに自己嫌悪に陥る。
鬼嫁になりたいとかいいつつ、十二分に鬼嫁的言動をかます私は鬼嫁の素質十分ではある。
っていうか、すでに創価学会から見たら、学会員の夫を持ちながら学会批判をし学会嫌いを貫く私は鬼嫁なのであろうが。
鬼嫁上等。

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「鉄腕DASH」が好きで、よく見ているのだが、私の心を捕らえて離さない企画がある。
「TOKIO vs 100人刑事」缶蹴りである。
山手線内の15カ所の公園に缶を置き、先に5個蹴ればTOKIOの勝ち、5個蹴らないうちに刑事がTOKIOを全員確保したら刑事の勝ち。コナンのような少年から中年まで、性別職業年齢様々な100人刑事集団を率いるのは、本物の元刑事(本日、6連敗)。
それが好きなのだ。好きだというよりも。
捕まえたい!!!もしくは缶を蹴りたい!!!
私には夢がある。
大人になったからこそ、あえてしたい。
大人だから出来る、大人の大規模缶蹴り。
「鉄腕DASH」でおなじみのビーコン(参加者全員が装備し敵が近づくと音が出る装置)を胸に携帯電話・無線・自転車・自動車・タクシー・電車、交通手段問わず、規模もどーんと広く。
やりたいやりたいやりたいやりたいよおおおおおママン!!!!
よっぽど、どんを抱き込んで、創価学会様の組織力とやらを利用して計画したいくらいである。
「華vs100人創価刑事」
……捕まったら入信とか条件出されそうだから辞めよう。逆境シチュエーションに燃えても体力がないからすぐに捕まってしまいそうだ…。
ちなみに警備と無線の使い方は長けている創価班は参加禁止。
「華&アンチ創価vs100人創価刑事」
どうですか?やりませんか?(嘘)
私には夢がある。
子どもの頃蹴り上げた缶の感触を忘れられない大人が、本気を出して、大規模にやる缶蹴りをすること。
もう一度、蹴り上げた缶が青空に舞うのを見たい。もう一度、追われる興奮と追う興奮に酔いたい。
……本気で「鉄腕DASH」の刑事に参加したいこの頃。